僕は母の作る弁当が大好きだ 特に黄色に色付く、菜の花弁当が大好きだ 四角い弁当箱の蓋を開けると、炒り玉子(いりたまご)の花畑が輝き現れる そしてその花畑の中を、挽肉の畦道(あぜみち)がインゲンの土手を伴ない斜めにはしる 言い過ぎかもしれないが、まるで映画の一場面のような弁当だ しばし見惚(みと)れてからおもむろに頬張る すると口の中一杯に、美味さをスパイスとした幸せがパッと満ちる やがてその幸せが腹から脳、そして全身へと染み渡る そして全身が幸せに包まれた時、弁当も空となり「ご馳走さま」を言う そんな弁当の時間が一番の楽しみで、ちょっと背伸びし入った高校に“赤点自動生産機”“究極の落第生”と言われようが通っていた もしかしたら母が毎日作ってくれたあの美味い弁当の数々は、「頑張って通い切れ!」と言う“駄目息子への母からのエール”だったのかもしれない 無事卒業し手にしたアルバムに、美味そうに弁当をつつく僕の写真が載っていた 勿論その弁当は“母の弁当”だ 「ありがとうお母さん」と30年後の今、駄目息子は呟く
【Silk】